カウンセリング広報だより
第23回 感情をつかまえる~話を聴くときに大切なこと~(2009.6.1)
心理カウンセラー 中島美佐子
カウンセリングでは、「傾聴」することが欠かせません。その傾聴とは、どんな話の聴き方なのでしょう。
たとえば、30歳代女性の話。
「夫が家でドテンと座っているのを見ると、もう、おしまいだという気持ちが沸いてくる。無神経さと図々しさと思いやりのなさをいっぺんに感じてしまう。もうこころがすれ違って何年にもなる・・・。以前はとても仲が良く、いい人と一緒になれたなって思えた。もういっそ、夫が別れようと言ってくれればいいのに」
こんな話を知人から聞かされたら、まず何と言いますか。「そんなこと言わずにだんなさんと話し合って」「夫婦なんてみんなそんなもの」「そんな人とは早く別れた方がいい」など、いろいろ言葉が思い浮かぶのではないでしょうか。
傾聴するときはまず、その人の感情に焦点を当てます。この女性の気持ちはどんなものでしょうか。
それは、「もうおしまいだという気持ち」「別れたい」などです。さらに「こんなことになってしまった悲しみ」や「変わってしまったもどかしさ」も感じていると推測できるかもしれません。このとき、「もうおしまいだと感じているんだね」と気持ちの理解を伝えるのが傾聴の始まりです。
日常の会話では、「何が起こったか」という事実について詳しく聞くことが多いのと同時に、つい先手を打って問題解決や助言をしたくなるものです。でも、それは傾聴とは違います。
傾聴とは、「この人が訴えたい気持ちは何だろう。そして、どういうわけがあってこのような感情を抱くようになったのだろう」という姿勢で話を聞くことだといえます。助言は気持ちを理解した後でも遅くはありません。
カウンセリングでこのような聴き方をするのは、「気持ちを分かってもらえた」という思いが、自ら問題を解決する力になるからです。そして、話を十分聴いてもらえたことで、「何をどう考えたらよいか」がおのずと見えてくるようになります。
このような聴き方は親しい関係であればあるほど、難しくなるものです。特に夫婦で会話をするときにはまず、「相手の訴えたい感情」をつかまえる努力をしてみてください。会話がもっと、楽しくなるかもしれません
参考文献 福山清蔵(2006) 「入門カウンセリングワークブック」 日本・精神技術研究所