カウンセリング広報だより
第10回 不妊は「トラウマ」?(2007.4.1)
心理カウンセラー 中島美佐子
トラウマとは、「精神的外傷」という意味です。精神分析学者のフロイトが、心理学ではじめて使ったことばです。物理的な外傷が後遺症となるのと同じように、過去のある経験がその後も精神的ダメージをもたらすことを、トラウマ(ギリシャ語で「傷」の意)と呼んだのです。たとえば、虐待などの恐怖体験や戦争などの衝撃的な出来事がそうです。つらい体験が心の傷として残ることをいいます。
不妊であることや、不妊治療はどうでしょうか。不妊に直面した時の衝撃、毎月の生理、治療による苦痛、治療が不成功に終わったときや、流産・死産の悲しみなどは、トラウマ体験であるといえるでしょう。
トラウマは、一人で抱えているより、誰かに話して受け止めてもらうことが良い場合もあります。ひどい経験をしたときは、気持ちを口に出すことが、何もない振りをするよりもずっと心にとっては必要となります。とくに悲観的なものを溜めておくことは、大きな負担となりかねません。
もし治療などでつらく悲しい経験をしたら、そのときは話すことができなくても、しばらくしてから「話してみよう」という気持ちになるかもしれません。「話す」ということは、トラウマとなった傷口から膿を出すようなものです。とても痛くてつらい作業です。でも、膿を出し切ったほうが、治りが早いことがあります。
そのとき、傷口を無理やり開いて、血を流しっぱなしにしていても、ただ痛いだけです。だから、傷を放っておくのでもなく、無理やり開くのでもなく、少しずつ丁寧に扱って処置してあげましょう。
心の傷を治すのには時間がかかります。そして、たとえ傷痕が完全に消えなかったとしても、その傷をきちんと扱うことが、心の回復には必要なのです。もし、自分の気持ちを話すことができたら、もっと確かな気持ちでいろいろなことを選択して、これからの人生を歩いていけるのかもしれません。
あなたの中に、閉じ込めている気持ちがあるのなら、それを一度は声に出してみてください。不妊はトラウマになるくらいつらい経験なのだ、ということを知っていてください。