体外受精や顕微授精を成功させるキーポイント!
ovarian reserve(卵巣予備能力)を評価した適切な卵巣刺激
ロング法
1.GnRH agonistの開始時期
GnRH agonist(主にスプレキュア:以下スプレキュアと記載)を開始する時期は施設によってさまざまで、前周期の卵胞期前期から使用する場合と前周期の黄体期中期から使用する場合などがあります。
前周期卵胞期初期と黄体期中期に開始した場合を比較すると、黄体期中期からスプレキュアを開始したほうで明らかに妊娠率が高いというデータを参考にして、木場公園クリニックでは黄体期中期から使用しています。
2.baseline cystの予防
黄体期中期からスプレキュアを使用すると、一時的にFSHとLHが上昇するために卵巣内に嚢腫ができることがあります。この卵巣嚢腫のことをfollicular cystと呼びます。follicular cystがあると、卵巣刺激を行なった場合ののピーク値が低くなり、採卵のキャンセル率が高くなり、採卵しても採卵数が少なくなることが分かっています。また、follicular cystの大きさが大きくなるほど妊娠率は低下するというデータもあります。
木場公園クリニックで採卵予定周期の月経1日目〜3日目の間に行なっている経膣超音波では、follicular cystの形成がないかを調べています。また、卵巣刺激中の経膣超音波で直径10mm以上のfollicular cystがあった場合には原則としてその周期はキャンセルしています。しかし、follicular cystの形成の有無を、ただ見ているだけではなく、よりよい採卵-胚移植を行なうにはfollicular cystが作られるのを予防することが重要です。予防には、前周期にoral contraceptive(ピル)を使うことが有効です。ピルは経口避妊薬としてのイメージが強いと思いますが、下垂体の抑制をかけるという効能を利用して卵巣刺激にも使用されます。
ピルを使うメリットとして、
- 自然妊娠していた場合(可能性がないとはいえませんよね)、それに気づかないでスプレキュアを使用するおそれがありますが、ピルを内服することで確実に「妊娠していない」状態をつくり、卵巣刺激を行なうことができます。
- follicular cystの形成率が低くなります。
- 卵巣内のアンドロゲンというホルモンの値が低下して、より質の良い卵ができる可能性があります。
- ロング法の時に使うスプレキュアの副作用のひとつ、頭痛を予防します。
- 前胞状卵胞の大きさの差が少なくなることにより、ある程度大きさの同じ卵胞の発育が可能になります。
などが挙げられます。
しかし、デメリットもあります。ピルはそのもので下垂体の抑制をかけるため、内服期間は慎重に選ぶ必要があります。特に、卵巣機能の低下している方にピルを長く使うというのはよくないと思います。
以上のことや、ロング法とショート法ではロング法のほうで受精率が良いというデータから、木場公園クリニックでは卵巣の予備能力が低下しておらず、卵巣刺激に対する反応が期待できるかたにはピルを前周期に使用したロング法で卵巣刺激を行なっています。
3.木場公園クリニックでのロング法による卵巣刺激方法
- 卵巣刺激前周期の月経3日目からピルを内服します。内服期間は14日〜28日間です。
- スプレキュアはピル内服終了日の2日前から使用します。
- 卵巣刺激周期の月経1日目〜3日目の間に行なう経膣超音波で、卵巣内にbaseline cyst がないか調べ、前胞状卵胞数を数えます。また、FSH、LH、E2、Pの値をみるため採血をします。
- 卵巣刺激を始める前日、または前々日のLHの値でhMGの種類を決めています。LHが1.5mIU/ml以上の場合はフェルティノームP75単位またはヒュメゴン100単位または日研hMG150単位を、LHが1.5mIU/ml未満の場合にはLHがある程度入っているヒュメゴン150単位を使用していきます。
- OHSS(卵巣過剰刺激症候群)の発生を減らすためには、左右の前胞状卵胞数によって hMGの量(アンプル数)を変えることが大切です。過去の卵巣刺激時のhMGに対する卵巣の反応も考慮しています。
- 前胞状卵胞数が7個 〜12個
- 300単位
- 前胞状卵胞数が13個 〜15個
- 225単位
- 前胞状卵胞数が16個以上
- 150単位
- 卵巣刺激開始後3本後または4本後のE2の値と卵胞の大きさによってhMGの使用量を変更します。
- 卵巣刺激開始後4本目または5本目より、hMGの種類はパーゴグリーンに変更します。
- 卵胞の平均径が18mm以上のものが2個以上できた時点で、hCGに切り替えます。
- hCG投与日のhMGの注射は、
- OHSSの可能性があるときは使用しない
- 卵胞発育が十分のときは前日の半量
- 卵胞発育が不十分のときは前日と同量
としています。
hCG投与日の翌々日が、採卵日になります。
アンタゴニスト法
1.GnRH antagonist(セトロタイド)
アンタゴニスト法で使用するセトロタイドという薬は、日本ではまだ発売されていません。現在日本では、ロング法による卵巣刺激が最も多く選択されていますが、セトロタイドが発売になれば将来的にアンタゴニスト法のほうが多くなると考えられます。
木場公園クリニックでは、アンタゴニスト法での卵巣刺激を考えている場合はコーディネートで、未発売であること、使い方、副作用などをお伝えし、患者様の同意を得られた場合は同意書を提出していただいてから、個人輸入という形でアンタゴニスト法による卵巣刺激を行なっています。
2.セトロタイドとスプレキュアの違い
アンタゴニスト法で使用するセトロタイドという薬とロング法で使用するスプレキュアでは、脳下垂体から分泌されるゴナドトロピンの抑え方が異なるのですが、「LHサージを抑え、勝手に排卵してしまうのを防ぐ」という目的は同じです。
セトロタイドは、皮下注射薬で痛みはありますが、効能の持続時間が約30時間といわれていますのでスプレキュアのように1日3回8時間ごとに・・・というわずらわしさはありませんし、使い始めるとすぐにゴナドトロピンの分泌を抑えるため、スプレキュアのように長い期間投与する必要がありません。
他にもロング法と比較して、下垂体の回復時間が短い、hMG(排卵誘発剤)の使用量が少なくてすむ、OHSSの発生が少ない、卵巣刺激にかかる総費用が安くなるというメリットがあります。
3.セトロタイドの開始時期
投与にはセトロタイド3mgを1回だけ注射する方法と主席卵胞の平均径が14mmになったらセトロタイド0.25mgを毎日注射する方法の2通りがあります。
木場公園クリニックでは、経膣超音波で主席卵胞の平均径が14mmになったらセトロタイド0.25mgを開始しています。セトロタイドの使用期間は3日(3本)位になります。
また、セトロタイドを開始したら原則的にhMG・セトロタイドとも夕方もしくは夜に使用しています。
4.木場公園クリニックでのセトロタイド法による卵巣刺激方法
- 卵巣刺激をかける前周期の月経1日目〜3日目の間に行なう経膣超音波検査で、子宮内膜の厚さ、前胞状卵胞数と卵巣嚢腫の有無を調べます。また、FSH、LH、E2、PRL、Tの値をみるため採血をします。
- 前周期の月経3日目からピルを内服します。内服期間は7日〜21日間です。ピルの量は卵巣の予備能力(ovarian
reserve)を評価して決めています。
(卵巣の予備能力が非常に低下している方は、周期によってばらつきが多いのでピルを使用しないで月経1日目から3日目に経膣超音波で前胞状卵胞数を調べ、前胞状卵胞数が多い周期をとらえたらその周期に卵巣刺激を行なっています。また、最初から注射による卵巣刺激をしないで、まずクロミフェンやシクロフェニルの内服をしてからhMGの注射を行なうこともあります。) - 月経が終わったらゾンデ診を行ないます。
- 卵巣刺激周期の月経1日目から3日目の間に行なう経膣超音波で、子宮内膜の厚さ、前胞状卵胞数と卵巣嚢腫の有無を再び調べます。また、FSH、LH、E2、Pの値をみるため採血をします。
- 卵巣刺激は月経2日目〜4日目から開始します。
- 卵巣刺激を始める前日または前々日のLHの値でhMGの種類を決めています。LHが1.5mIU/ml以上の場合はヒュメゴン100単位、日研hMG150単位またはフェルティノームP75単位を、LHが1.5mIU/ml未満の場合はLHがある程度入っているヒュメゴン150単位を使用していきます。FSHとLHの値が最初から非常に低いかたには最初からLHが多く入っているパーゴグリーンで、150単位を1週間、225単位を1週間、それから300単位とゆっくりマイルドに卵巣刺激を行ないます。
- 排卵誘発剤の量(アンプル数)は前胞状卵胞数と過去の卵巣刺激のデータをもとに決定します。
- 前胞状卵胞数が6個以下
- 400または450単位
- 前胞状卵胞数が7個〜9個
- 300単位
- 前胞状卵胞数が10個〜12個
- 225単位
- 前胞状卵胞数が13個以上
- 150単位
- 卵巣刺激4日目または5日目から経膣超音波を行ない、主席卵胞の平均径が14mmになったらセトロタイド0.25mgの皮下注射を開始し、hMGの種類はLHを多く含んでいるパーゴグリーン150単位に変更します(FSH:LH=1:1)。
セトロタイドの注射の開始時から、誘発剤・セトロタイドとも夕方か夜に(午前中から約3時間ずつ注射の時間をずらして夕方にもっていくこともあり)使用します。 - 主席卵胞の平均径が20mmになったらhCGに切り替えます。
hCG投与日には、セトロタイドは原則的に使用しませんが、前周期の卵巣刺激中にP(プロゲステロン)の上昇があった方やLHが高めだった方にはhCG投与日にもセトロタイドを使用しています。
PCOSなどでOHSSになる可能性が高いかたには、hCGの代わりにスプレキュアを0.3mg使用してLHサージをおこすこともあります。 - hCG投与日のhMGの注射は、
- OHSSの可能性があるときは使用しない
- 卵胞発育が十分のときは前日の半量
- 卵胞発育が不十分のときは前日と同量
としています。
hCG投与日の翌々日が、採卵日になります。
卵巣の予備能力が非常に低下しているかたの卵巣刺激
周期ごとのばらつきが多いので、ピルを内服しないで月経1日目から3日目の前胞状卵胞数が多い周期に卵巣刺激を行ないます。また、最初から注射による卵巣刺激は行なわずまずクロミフェン、シクロフェニルの内服をしてからhMGの注射を行なう場合もあります。
PCOS(多嚢胞性卵巣症候群)の卵巣刺激
PCOSのARTに対する問題点として、
- OHSS(卵巣過剰刺激症候群)になりやすい
- とれた卵の質が悪い
- 子宮内膜の受容力が弱い
- 流産率が高い
があります。
PCOSは、病態が明らかになるにつれ、機能性卵巣アンドロゲン過剰分泌(FOH)として理解されるようになりました。また、PCOSではしばしばインシュリンに抵抗を示し、代償的に高インシュリン血症となり、アンドロゲン過剰分泌をおこします。
インシュリンに対する感受性を高める、糖尿病治療薬のグリコラン(メトフォルミン)を内服すると、卵巣レベルでインシュリンの作用を変化させて卵巣内のアンドロゲン濃度を低下させ、PCOSの症状が改善する場合もあります。
採卵の約1〜2ヶ月前からメトフォルミンを1日750mg内服して、アンタゴニスト法で卵巣刺激を行ないます。
低ゴナドトロピン性性腺機能低下症の卵巣刺激
FSHとLHが低下しているので、ピルまたはカウフマン療法で消退出血を起こした後、hMGによる卵巣刺激を行ないます。最初から300単位を使用するのではなく、少ない単位数から日数をかけて、例えば150単位で1週間、225単位で1週間などというように、ゆっくり卵巣刺激を行なうことが重要です。
「前のクリニックでは、採血を毎日はしなかった」
「前回とhMGの種類や量が違う」
「知り合いと同じロング法なのに、経膣超音波の回数や費用がぜんぜん違う」
「採卵予定日がずれた」
など患者様が疑問や不安に感じることは多々あると思います。
患者様からすると採血の回数は少ないほどよいし、採卵日は早目に分かるほうが予定など立てやすいでしょう。しかし我々は、ホルモンデータに合わせてhMGの種類や量を選択・変更していく、ホルモン値やエコーから卵の成熟時期を予測して卵にとって最良の日に採卵するなど、得られる情報をフルに活用して今回のこの一回の卵巣刺激をより大切に行なえるように努めています。
それは「○○様の卵巣刺激」という、より細かい卵巣刺激につながり、良好な卵を得ることや、より着床率を上げることにつながります。